保坂内科消化器科のブログ

日々学んだことを備忘録として記します。

Functional dyspepsiaについて

ROMEⅣ基準が世界的に用いられているが、日本ではこの診断まで現実的に経過を見ることが難しい。日本の診断基準では期間については規定がないが1ヶ月以上持続するれば慢性的に見られると判断されるようである。以下RomeⅣ基準から。

6ヶ月以上前から症状があり、最近3ヶ月は下記の2つの基準を満たしている。

1.以下の1つが必須

食後のもたれ感

早期飽満感  

心窩部痛   

心窩部灼熱感 

2.器質的疾患の除外

 

FDの症状は、膵臓や腸管(小腸、大腸)、腹膜の腫瘍でもディスペプシアは出現する。

FD症状を呈した患者の内、trypsinやelastase1の上昇の見る患者のうち、約半数でEUS上、早期慢性膵炎の所見を呈し、フオイパン投与に反応することが多いとの報告がある。膵酵素の上昇のない症例で早期慢性膵炎と診断されることは多くないという。

 

FDの機序

FDでは胃の運動不全、胃底部の弛緩不全、胃の伸展知覚過敏、食後に増強する伸展知覚過敏、胃や十二指腸の冷水や酸に対する知覚過敏が報告されている。この知覚過敏が末梢、中枢のどのレベルで起こっているのかについては明らかにされていない。

胃が爆状胃であった場合にはそうでない場合よりもFD症状が出現しやすいことがわかっている。

食事開始後の比較的早期の消化管運動能や消化管運動能を制御するgut hormone分泌にかかわっている十二指腸粘膜が、FDの病態形成に重要な役割を演じている。感染後FD患者の十二指腸粘膜に好酸球やマクロファージなどの免疫担当細胞の有意な遊走が認められたことがある。

たとえば、Norovirusは上部小腸に定着し、Giardia lambliaの定着部位と炎症の場は十二指腸や上部小腸であり、Salmonella sppやCampylobacter jejuniは終末回腸から大腸に定着し炎症を惹起することが知られている。また、一方で、腸管の炎症によって、消化管運動能に影響を及ぼすことは報告されているが、炎症の波及していない遠位の腸管の運動機能異常をもきたすことも知られている。さらに、十二指腸粘膜の透過性の亢進がFDの患者に認められることが報告されている。しかしながら、感染消失後も十二指腸粘膜の炎症が持続するという根本的な理由はよくわかっていない。

さらに最近では、胃に存在するghrelin、上部小腸に分布するCCK、小腸と大腸に広く分布するGLP-1、遠位小腸と大腸に広く分布するPYYなどと消化管運動との関与が注目されている。

治療

PPIでもH2RAでもプラセボと比較して20%程度の効果で制酸効果と関係はないとの報告があるが、現実的にPPIがもっとも多く処方されているだろう。

食後のもたれ感:PPI

早期飽満感  :PPI

心窩部痛   :PPI+アコチアミド、2ヶ月以上を投与してみる

心窩部灼熱感 :PPI+アコチアミド、2ヶ月以上を投与してみる

 

ピロリ菌がFDに関与しているのは14例に1例程度。メタアナリシスではNTT13であった。鳥肌状胃炎では、除菌によって症状が改善しやすいとの報告がある。

アコアチミドはプラセボ(奏効率30-40%)上乗せ効果は20%程度、胃もたれ、早期飽満感に対する効果の方が、心窩部痛症状改善効果よりも優れる。

六君子湯プラセボに対して+10%程度の改善効果、エビデンスが十分とは言えない。

薬物効果は一応4週目に判定するが、この限りでないと思う。

抗うつ薬についてはタンドスピロン(セディール)の有用性が示されている。

 

催眠療法も有効である。

chronic instestinal psudo-obstruction (CIPO)について一般医レベルで覚えておくこと

基本的事項

1.腹部膨満、嘔気・嘔吐、腹痛等で入院するほどの重篤な腸閉塞症状が6か月以上
2.画像診断で消化管の拡張と鏡面像
3.消化管を閉塞する器質的な病変を認めない
シネMRIまたは消化管内圧検査で小腸を中心とする明瞭な運動異常が証明される。シネMRIで平均腸管拡張径40mm前後のものは小腸蠕動運動異常を伴う。

続発性CIPOの鑑別
1)消化管平滑筋関連疾患

 膠原病関連:SSc、PM/DM、SLE、MCTD     →膠原病検索
 アミロイド―シス                
 エーラス・ダンロス(Ehlers-Danlos)症候群

 筋ジストロフィーミトコンドリア脳筋症     

2)消化管神経関連疾患
自律神経障害 →糖尿病性神経症、自己免疫性のものについては血液検査
筋緊張性ジストロフィー                  
EBV、VZV、ロタウイルスなどの感染後偽性腸閉塞  →病歴、血液検査など

3)内分泌性疾患                 →血液検査
甲状腺機能低下症、副甲状腺機能低下症、褐色細胞腫

4)代謝性疾患                  →血液・尿検査
尿毒症、ポルフィリン症重篤電解質異常(K+、Ca2+、Mg2+)

5)その他
結核クローン病好酸球腸炎    
セリアック病             →抗グリアジン抗体、抗EMA抗体
傍腫瘍症候群(Paraneoplastic pseudo-obstruction) →全身検索が必要
腸間膜静脈血栓症                 →腹部CT
放射線治療による副反応            
血管浮腫                    
シャーガス(Chagas)病             →海外滞在歴の聴取
外傷、消化管術後、腹腔内炎症等に起因する麻痺性イレウス

6)薬剤性
抗うつ薬抗不安薬
アントラキノン系下剤
フェノチアジン系
ビンカ・アルカロイド(Vinca alkaloid)
抗コリン薬、オピオイド
カルシウムチャンネル拮抗薬(べラパミルなど)

大動脈瘤について知っておくべきこと

最大短径

局所的拡張の長径が正常径の1.5倍を超えたものを大動脈瘤という。

瘤のサイズはCTで測定し最大短径を用いる。

蛇行は、上下方向への拡張を反映している。蛇行を瘤の短径の拡張としてとらない様に注意する。

 

胸部大動脈    正常範囲3cm以下→大動脈瘤の短径は4.5cm以上

ただし、弓部大動脈や下行大動脈は4cmが正常径。

腹部大動脈    正常範囲2cm以下→大動脈瘤の短径は3cm以上

成因

多くは動脈硬化

その他:感染性、炎症性、外傷性、解離性、Marfan症候群など

リスクファクター:高齢、男性、喫煙、高血圧、家族歴

症状

大多数は無症候性であり、CTやエコー検査で偶然発見される。

①瘤破裂による疼痛:腹痛、腰痛

②周囲臓器への圧迫症状:胸部では嗄声反回神経麻痺)、血痰(肺・気管支圧迫)、嚥下障害(食道圧迫)、腹部膨満感、便通障害、腹痛、下肢浮腫、消化管出血(瘻孔形成)。

③分枝血管の循環障害による臓器虚血症状:解離や血栓閉塞が原因となる。頭頸部の動脈では意識障害、冠動脈では胸痛、指趾の動脈では疼痛、腹腔動脈や腸間膜動脈では腹痛等。

治療

【外科的治療の適応】

5.5-6cm以上で破裂の可能性が高くなる。

手術時の早期死亡率5%として、短径>50mmがまたは5mm増加/年以上が手術。

単純CTで大動脈周囲の高吸収域の存在は破裂、切迫破裂の重要で早期治療。

吻合部仮性瘤や嚢状瘤の場合には大きさに関わらず早期治療。

マルファン症候群のような遺伝的大動脈疾患、先天性二尖弁、大動脈縮窄症の合併例では45mm以上で侵襲的治療も考慮する。

嗄声出現時、背部痛出現時には早急な対応をする。

 

胸部大動脈瘤破裂リスク

<40mm 0%

40-49mm 0-1.4%/年

50-59mm 4.3-16%/年

>60mm  10%-/年

 

AAA(aortic abdominal aneurysm)について

最近のメタ解析によると破裂リスクが過大に評価されていた可能性がある。United Kingdom Small Aneurysm Trialでは5.5cm未満のAAAに早期に手術を行うメリットは否定された。日本では男性5cm以上、女性は破裂リスクが高いため、4.5cm程度で治療が推奨される。

 

【外科における画像フォロー】

単純CTもしくは超音波。CTが客観性が高い。通常半年に1回。

無症状でCTで大動脈径<45mmであれば、半年後のCT再検査。拡大なければ1年後フォロー。無症状で45-55mmの場合、女性、高血圧症、喫煙、慢性閉塞性肺疾患、大動脈瘤の家族歴を認めるものは破裂の危険性が高いことを考慮して手術適応を検討する。

 

【内科から外科への紹介のタイミング】

破裂のリスクの高い5.5-6cmから1cm程度小さい時期に外科に相談するのが妥当であろう。上行大動脈瘤≧4.5cm、弓部・下行大動脈≧5cm、腹部動脈≧4.5cmがこれに相当する。

 

瘤径の拡大ともに瘤径の拡大の速度も速くなる。5mm以上の拡張を認めた場合、破裂の危険性が高いとされる。大動脈瘤の一般的な拡大率は胸部で1-2mm/年、腹部で年3-4mm/年。

 

【内科治療】

日常生活:血圧180mmHgを超えない程度の運動にとどめ、無酸素運動は避ける。

禁煙:血圧以上に重要かもしれない

血圧≦130mmHg:動脈硬化性の胸部大動脈瘤に対してはβ遮断薬、腹部大動脈瘤に対してはACEi。マルファン症候群にともなうものについては、β遮断薬もしくはARB(イルベサルタン)。

動脈硬化性ものについては、スタチン。

弱毒菌対策:TC系、マクロライド系の小規模臨床研究のみ。

 

健診等で発見された胆嚢ポリープのフォローの仕方

胆嚢ポリープの手術適応は腫瘍性か否かの臨床判断に基づく。

広基性で大きさ10mm以上、充実エコーを呈する胆嚢ポリープを有する患者は、胆嚢摘出術を行うことが勧められる。10mm以下の隆起性病変でも、7.4%が腫瘍性であったことから6mm以上を外科切除の適応とするほうがよいという報告があり注意を要する。

 

健診等で発見されたポリープのフォローについて施設間の違いについて調べた。

 

【施設A】:5mm 以下の胆嚢ポリープは1年ごと、6~10mm の胆嚢ポリープは6カ月ごとの超音波検査でフォローアップ。

 

【施設B】病変が5mm以下であれば、6カ月後に再検する。5~10mmの場合は、胆嚢壁との付着様式が広基性の場合、および有茎性で茎の太く観察される場合は、より詳細な壁との付着形態の評価を要するため精査が必要である。自施設で可能な場合には単純CT、DynamicCTによる評価を行う。また、有茎性で茎が太くない場合は、3カ月後に再検する。限局型の胆嚢腺筋腫症かコレステロールポリープの所見が見られる時は6カ月後の再検でいい。

 

【施設C】広基性、10mm以上のものは腫瘍性を疑わせる所見である。初回発見の5mm未満のポリープは、6ヵ月毎超音波検査でフォローアップする。初回発見5mm以上10mm未満のものは、初回3ヵ月後の超音波検査、異常がなければ6ヵ月後との超音波フォロー。

 

【施設D】type A:肝実質様で肝実質と等エコー,type B:肝実質様で内部に小嚢胞様構造,type C:不均一で内部に高エコースポットとすると、胆嚢ポリープの診断精度を上げるためにはtype Aに注目すべきである。type B(小嚢胞様構造),type C(高エコー スポット)はコレステロールポリープと炎症性ポリープのみであり,経過観察でよい。

潰瘍性大腸炎におけるヒトサイトメガロウイルス感染症の診断と治療

ステロイドを含む2剤以上の免疫抑制剤使用に治療抵抗性を示す症例はヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染リスクが高い。

免疫学的検査:約60-70%の正常健康人がキャリアーである。一般に、HCMV再活性化が生じた患者においては、HCMV-IgGの変化はほとんど認められない、抗体測定はHCMV未感染患者のスクリーニングには有用であると思われるが、HCMVキャリアーからの再活性化の評価には有用ではない。

HCMV抗原検出:末梢血の再活性化は必ずしも消化管臓器での再活性化を反映しているわけではないことに注意する必要がある。

HCMVの組織診断:組織学的にinclusion bodyがあること。典型的なHCMV感染細胞は巨大化し広いhaloを持つcytomegalic inclusion bodyを呈することで、HCMVの増殖が活発であることを意味する。CMV特異的抗体やin situ DNA probeを用いることにより検出感度は向上する。

HCMVの核酸診断:微量なDNAの混入による偽陽性の可能性やプライマー結合部位に変異があると増幅できないなどの問題がある。一般的にIE蛋白のIE遺伝子が検出する。

診断法:gold standardは血中antigenemiaではない。潰瘍底からの生検で、CMVの存在の有無を確認することである。血中antigenemiaではHCMV抗原が検出されないことが多くあり、治療方法の決定に難渋する。UCの治療中にPSLの減量のみでantigenemia陽性から陰性になることが報告されている。また、antigenemia法はfalse-positiveが多く、末梢血球のDNAを用いたPCRによりHCMVを調べることを推奨する報告もある。

潰瘍の形態と粘膜生検におけるHCMV-DNA再活性化陽性所見との相関はない。ただし、潰瘍の有無、発赤と浮腫の存在はHCMVと相関する。

治療

ガンシクロビル投与によっていったん軽快するが、その後約1/3が再燃する。

粘膜の炎症を制御することが、HCMVの再活性化を抑制すると考えられている。

 

E型肝炎

E型肝炎ウイルスの遺伝子型

1型:アジア、アフリカ諸国。ヒトのみに感染。

2型:メキシコ、ナイジェリア、ナミビア。ヒトのみに感染。

3型:世界に広く分布。ヒト、豚、イノシシ、シカ、ウサギ等。

4型:日本、中国、台湾、ベトナムなど。ヒト、豚、シカ、イノシカ、ウサギ等。

 

1型と2型は人のみに感染。3型と4型は豚や猪などの動物を主たるリザーバ―とし、ヒトでも散発性E型肝炎の原因となっている。ヒト以外の動物でのHEV感染はは不顕性である。3型の劇症化率は0.9%、4型は9.3%と高い。

日本においては、イノシシ、シカ、豚などの生肉を摂取することによる急性E型肝炎が目立つが、感染源を特定できない症例が40%あまりある。

 

E型肝炎のほとんどは不顕性である。感染者の1%程度が肝炎を発症すると言われる。肝炎発症例での重症化・劇症化率はそれぞれ10%弱、数%と高い。ブタレバーや猪肉、シカ肉の生食や加熱不十分な状態での接触による感染が多くが、献血による感染もある。これに対して日赤は、献血製剤に対するE型肝炎ウイルスの核酸検査を準備している。

移植後肝炎の60%が慢性化すると言われている。免疫抑制状態においてはE型肝炎は慢性化しやすい。

E型肝炎に対する治療としてリバビリンがあるが、耐性を示す例も報告されている。

腎血管性高血圧症の検査と診断

診断には、MRアンギオグラフィーにて狭窄が75%以上のものを腎動脈狭窄とするのがよい。MRアンギオは基本的に造影剤は必要がないことがメリットで、狭窄を過剰に表現するデメリットでがあることに留意する。最終診断には、腎動脈造影や造影CTが必要となるが、腎機能障害例が多いため、行えないことも多い。形態だけではなく、カプトプリル負荷レノグラムで狭窄腎の機能も低下していることを確認して、初めて腎動脈狭窄による腎血管性高血圧と診断される。

この状態では、ANP(心房性利尿ペプチド)濃度も上昇するため、レニン活性上昇は抑えられ、PRAは正常から軽度上昇にとどまる。片側か両側かはアルドステロン上昇の程度に影響する。両側性のものは、ろ過量の減少による体液過剰があり、レニン・アルドステロンは上昇しないとされる。診断時に注意すべきことである。分腎レニンサンプリングは最近は行われない。

 

スクリーニング検査として腎血流ドプラが有用であるとする見解がある。

直接所見:下記を満たすとき、腎動脈狭窄度が60%以上とされる。

腎動脈本幹Peak Systolic Velocity>180cm/s *EDV>90cm/sを有意としてもよい。

かつ

RAR(腎動脈PSV/大動脈PSV)≧3.5  *大動脈の血流はSMA分岐の末梢側とする。